Posted by クロキ安曇 - 2011.05.15,Sun
恋をすると、女の子は可愛くなるらしい。
じゃあ、男はどうなんだろうか。
「快斗ー、そろそろ新一君起こしてきてくれるー?」
階段下からかけられた母親の声に、自室で制服に着替えていた快斗は「はーい」と叫び返した。
もう十年以上も続けている習慣は既に生活のルーティンであり、高校生という気難しい年頃であっても、その頼まれごとを面倒に感じることもない。
快斗は自室の窓を開けると、正面――およそ二メートル弱ほど離れた先にあるバルコニーへ、慣れた仕草で飛び移った。たまたま通り掛かった人が見たら思わず目を剥いて驚きそうな光景だが、幸運なことに、通報されたことはまだ一度もない――何度か家主にされかかったことを除けば。
その家主を起こすため、快斗は今では開けっ放しになっているバルコニーの窓を開け、中に入った。
ちなみに、危ないからちゃんと鍵を掛けて寝ろ、と何度も忠告しているのだが、毎朝ピッキングして不法侵入されるよりマシだとの、快斗にはイマイチよく分からない理屈によって今のところねじ伏せられている。解決策としては快斗が玄関から鍵を使って入れば万事解決するのだが、毎朝のルーティンだからこそ、無駄な時間は短縮したい快斗だ。三秒で済む移動にわざわざ一分もかける理由がない、というのが快斗の主張だった。
その家主は、相も変わらず健やかに眠っていた。
――工藤新一。
快斗の隣に住む同い年の同級生で、幼少時代からずっと連んできた幼馴染みだ。
このねぼすけの幼馴染みを毎朝起こすのが快斗の日課だった。
(そもそも、新一が自分で起きればいいんだよな)
そうすれば無用心だ不法侵入だと言い争う必要はない。
しかし、だ。
「新一、朝だぞ。起きろよ」
呼びかけながら軽く肩を揺すれば、新一は鬱陶しそうに身を縮めて。
「うーん、あと五時間……」
ぷちん、と快斗の血管が切れた。
「アホかー! そこは普通、五分だろ! 五時間も寝てる余裕があったら起こしにくるわけねーだろが!」
盛大に喚きながら布団を剥ぎ取ってやれば、布団に引きずられて床に墜落したらしい新一から、ごん、という鈍い音が聞こえてきた。しかしながら、同情の余地はない。
「う~~……いってえなぁ。なにすんだよ、快斗」
どうやらおでこをぶつけたらしい新一が額を押さえながら、涙の浮かんだ目で睨み上げてきた。
その睨みを、快斗はさらっと無視した。
「さっさと起きない新一が悪い」
「仕方ねーだろ。俺はまだ三時間も寝てねーんだよ」
「どうせ本でも読んでたんだろ。自業自得だ。やっぱり新一が悪い」
「う~~……」
「唸っても駄目。早くしないと朝飯食いっぱぐれるぜ」
新一はまだ眠さと不満と格闘しているようだったが、快斗は布団をベッドに戻すと床に座ったままの新一を引き起こし、ぶつけたらしい額がこぶになっていないか確かめた。あの大女優、藤峰有希子譲りの美貌に傷でもつけようものなら、彼女の大ファンである母親に大目玉を食らう。なにより、新一が落ちたのはたまたまで、怪我をさせるつもりなどなかったのだから。
だが、心配はいらなかった。こう見えて新一は案外丈夫なのだ。
「ちょっと赤くなってるけど、これならすぐひくだろ。顔洗って着替えたら飯食いに来いよ。早くしないと冷めちまうからな」
新一は渋い顔をしながらもこっくりと頷いた。
それを確認して、自室へ戻ろうとバルコニーの手すりに手を置いた快斗に、新一が「あ、そうだ、快斗」と声をかける。
振り向いた快斗に、新一はにこっと笑いながら言った。
「おはよ、快斗」
――まただ、と快斗は思った。
快斗の心臓は、ときどきバカになる。
特にこうして何気なく新一に笑いかけられたとき、それはよく起こった。
バクバクと鼓動が早くなり、ともすれば顔が赤くなりそうになる。それを知られるのはなんだかひどくマズイ気がして、快斗は「さっさとしろよ」と愛想なく言い放ち、自室に飛び移った。
窓を閉め、カーテンも閉め、深い溜息を吐きながらずるずると壁に預けた背中を擦りながらしゃがみ込む。
恋をすると、女の子は可愛くなるらしい。
ならきっと、男も恋をすれば可愛くなるんだろう。
にっこり笑う新一があんなに可愛く見えるのはきっとそのせいだと、快斗は呪文のように自分に言い聞かせた。
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